「調べる、読み取る、伝える」で夢を描け…  *海老名市政にも参考に…教育

立正大学付属立正中学校・高等学校(東京都大田区)は、「社会に貢献できる有益な人材を輩出すること」を目標に掲げ、独自の「R―プログラム」を実践している。今春は、中1からの6年間、R―プログラムに取り組んだ最初の卒業生を送り出した。このプログラムの内容と、それを通して自分を磨き、将来の夢に向かって歩み出した卒業生に話を聞いた。

コラムを読み解き、意見をまとめて、発表する

R-プログラムについて語る今田正利校長補佐
日蓮宗系の学校である立正大学付属立正中学校・高等学校は、宗祖・日蓮の教えを日々の教育に生かしている。「鎌倉時代に日蓮が説いた『立正安国』とは、正しく、安らかな国家を造ることです。この言葉を踏まえて、6年前の校舎移転に際し、学校法人としての私たちのアイデンティティーを『社会に貢献できる有益な人材を輩出すること』と捉え直しました。その流れで導入したのがR―プログラムです」。今田正利校長補佐・入試広報部長はこう説明する。

同校は、「社会に貢献できる人材」のスキルを「Research(調べる)」「Read(読み取る)」「Report(伝える)」と集約し、その能力を鍛えるプログラムを、三つの頭文字を取って「R―プログラム」と名付けている。

今田校長補佐によると、「R―プログラム」は主に、朝のホームルームで実施される。取り組みの中心となる「コラム・リーディング」では、新聞、雑誌、ウェブサイトから選ばれたコラムを基に作成された学年共通の課題プリントに、毎朝15分間取り組む。この「コラム・リーディング」は特別な行事の準備期間を除いて、ほぼ毎週行われる。

「たとえば週初めの月曜日には課題のコラムを読み解いて、自分の意見を200字前後にまとめ、火曜日にみんなの前でスピーチするという流れです。1回4人ぐらいが発表するので、1か月半に1度ぐらいは順番が回ってきます」

コラムのテーマは、「電車内や駅でのマナー」や「税金について」という身近なものから、社会情勢にまで及ぶ。たとえば、「観光立国日本で外国人客が急増している。中には、マナーを守らない外国人もいる。世界を見渡せば、ベネチアのように観光客を制限する国もある」。そんな趣旨のコラムに対して意見を書かせたことがあった。

「『観光客を締め出すことはしない』という意見が大多数でした。では、どうしたら問題を解決できるかと尋ねたところ、『日本着の飛行機の機内でマニュアルを配る』『標識をもっと細かくしてマニュアルとリンクさせる』など、よく考えられていて感心しました」と今田校長補佐は振り返る。

朝の「R―プログラム」で盛り上がった話題は、ロングホームルームの時間に、掘り下げて議論する場合もあるそうだ。「かつて中東の紛争地域で拘束されて、旅券を政府に制限されたジャーナリストが話題になりました。このテーマについて取り組んだ時は、新聞社の現役記者を教室に招き、『なぜ、紛争地域で取材活動をしなければならないのか』など、リアルな話を伺いました。それによって生徒たちは多面的な視点からニュースを捉えることができて、大きな力になったと思います」

「R―プログラム」がきっかけで、ニュース番組をじっくり視聴したり、新聞を読み込んだりする習慣が身に付く生徒も少なくないという。日々の学習成果は、年1度の『弁論大会』で披露される。中1と中2は各クラス1人、中3は各クラス2人がエントリーして、熱弁を振るうという。

内気な性格を克服し、アナウンサーを目指す

「R-プログラムで内気な性格が変わった」と話す卒業生の鈴木涼馬君
卒業生で、現在、上智大学経済学部経済学科1年の鈴木涼馬君は、2013年から始まったR―プログラムに中高の6年間取り組んだ1期生だ。

「僕は子供の頃から内気で、人の目を見て話すことができませんでした。人前でスピーチなんてできないと尻込みしていましたが、R―プログラムで回を重ねるうちに、自分の意見を述べるのが楽しくなり、中1の秋ぐらいには、人前で話すことに自信が持てるようになりました。ホームルームでみんなが発表するのを聞くと、『ああ、そういう意見もあるのか』と多角的な視点を持てるきっかけにもなりました」と鈴木君は振り返る。

「コラム・リーディング」を続ける中で、鈴木君は自分の進路を左右する課題に出会ったという。

「ドナルド・トランプがアメリカの大統領に就任したとき、経済の流れが大きく変わっていくのを実感しました。その仕組みを僕たちにも分かりやすく伝えてくれたのがジャーナリストの池上彰さんです。それがきっかけで『経済学のスペシャリストになりたい。経済学者になりたい』と考えるようになりました。同時に、もう一つ夢が広がりました。それはアナウンサーになること。著名なアナウンサーを輩出している上智大の放送研究会というサークルに入会して勉強しています」

上智大学への進学は公募推薦で、数学の学科試験及び志望動機と自己PRを書いた小論文、面接で評価される。「上智はご存じの通り、高い英語力が問われますが、高3の時の英語力では一般入試を突破できなかったと思います。公募推薦で合格できたのは、R―プログラムでコミュニケーション能力が上がった成果だと思います」と胸を張る。

鈴木君は進学後、必死に勉強して大学の講義でも英語でプレゼンテーションができるまでに実力を付けたという。「『眠りが人間の行動にどう影響するか』というテーマでプレゼンテーションしたのですが、構成力と聴く人の目を見てきちんとスピーチできていると評価されました。これも、中高時代のR―プログラムで鍛えられたおかげだと思います」

中1から始まるキャリア教育で高まるモチベーション

広告会社で職業体験を行う中学3年生
鈴木君はR-プログラムの成果で希望の大学への進学をかなえたが、このプログラムはより広い意味でのキャリアプログラムでもあり、目的は「社会に貢献できる有益な人材を輩出すること」にある。「かつては大学名や偏差値で進学先を選んでいましたが、私たちが目指しているのは、生徒一人一人が、自分の希望する職業に就いて社会で活躍することです」と、今田校長補佐は熱っぽく語る。

同校のキャリア教育は、中学1年次の「職業講話」から始まる。これまでに同校卒業生の映画監督・藤井道人氏を始め、さまざまな職業の人々を招いて講話してもらっている。「その仕事はどんな仕事で、やりがいは何か。その職業に就くにはどんな資格が必要で、どんな大学のどの学部で勉強すればいいのか。そのために中学・高校でどんな勉強をしたのかなどを語ってもらいます」

中学2、3年では、各3日間ずつの職業体験がある。「2年続けて職業体験をするのは、前年の反省を生かせるからです。約70~80の企業や団体、学校などの職場を用意しています。携帯電話の部品を作る工場から、アレルギー検査の研究所、スポーツイベントの会社、警察、小学校にも協力を得ています」。警察で実際に指紋の取り方を教わったり、大学の研究室でナメクジに色覚があるかどうかの実験に取り組んだりもしたそうだ。

さらに、高校に進めば1年次でオープンキャンパスに参加し、2年次に学部ガイダンスを受講する。こうした早期のキャリア教育には狙いがある。「自分がどんな仕事に就きたいか、それを先に決めることで今、何をすべきか、どんな勉強をして、どの大学を目指すのか、逆算することでモチベーションが自然と高くなります」と今田校長補佐は語る。

「調べ」「読み取り」「伝える」。この三つのRは、将来、どんな道に進むにしても生徒たちの有力な武器になるに違いない。R-プログラムで自分を磨いた卒業生が次々と「社会に貢献できる有益な人材」に成長していくことに期待したい。(読売新聞)